砂漠の夜の幻想奇談

見れば至る所に薔薇の花が飾られている。

それらの放つ魅惑的な香りにノーズハトゥは酔いそうになった。


花や幾何学模様の絨毯が敷かれた廊下を歩き、宴の会場である広間へ。

「女性の方はこちらです」

不意にノーズハトゥのことを女奴隷が呼び止める。

わかっていたようで、カンマカーンは残念そうに微笑んだ。

「ここでお別れですね。ではまた後で」

「はい、王子」

カンマカーンとは別の部屋へ通されるノーズハトゥ。

宴の席は男女別々とされており、サフィーアを主役とした女性のみの宴、そしてシャールカーンを主役とした男性だけの宴に分かれていた。

後で花嫁が花婿のもとへ赴くが、その時まで新郎新婦は顔を合わせないのが仕来たりらしい。


サフィーアがいるであろう宴の間を訪れて、ノーズハトゥは目を見張った。


(あっ、ノーズハトゥ姫!いらっしゃい!)


ニッコリ笑うサフィーア。

ラマダーンの時期に美しく輝く満月がそこにいた。


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