砂漠の夜の幻想奇談
「楽しゅうございました。サフィーア姫がとてもお綺麗で……とても…」
言葉が続かない。
無理をして笑っていた笑顔が崩れた。
自然とこぼれてしまった頬に伝わる涙を慌てて拭う。
そんな傷心しているノーズハトゥを、カンマカーンはギュッと抱きしめた。
「あっ、王子…?」
「姫、僕が貴女を愛します。幸せをたくさん差し上げます。だから――僕と結婚して下さい」
「王、子…!?」
目を丸くして見上げてくる年上のいとこ。
可愛いなと思ったカンマカーンはクスッと笑ってから耳元で囁いた。
「一度ちゃんと言っておきたかったんです。……返事を聞いてもよろしいですか?」
少し躊躇う素振りを見せたノーズハトゥだったが、耳を真っ赤に染めながらゆっくりと頷いた。
「私などで、よろしければ……その…」
「っ!ありがとうございます!嬉しいです!」
「きゃ!?」
さらにきつく抱きしめられる。
ノーズハトゥも怖ず怖ずとカンマカーンの背中に腕を回した。
この姫と王子の一部始終を、ルステムは柱の陰から複雑な表情で見つめていたのだった。