砂漠の夜の幻想奇談
コンスタンチノープルを落とす。
それはつまりサフィーアの故郷を攻め滅ぼすということだ。
(俺に、サフィーアの故郷を…!?)
実行したらサフィーアが泣き悲しむこと請け合いだ。
王の命令と言えども、これだけは頷けない。
「父上……私は…」
教えてしまおうか。
妻の故郷がコンスタンチノープルで、しかも彼女はアフリドニオス王の一人娘なのだと。
オマル王はこの事実を知らないはずだ。
言えば考え直してくれるかもしれない。
(だが、もし父上がサフィーアを利用したら…?)
サフィーアを人質とすればコンスタンチノープルなど容易く掌握できるだろう。
身動きを封じて一気に攻め入るかもしれない。
「なんだ?シャールカーン。浮かぬ顔だな」
「いえ……その…」
「何か意見があるなら申してみよ」
シャールカーンの顔は青ざめた。
知らず、冷や汗が流れる。
(言えない…!!父上の出方がわからない以上、迂闊にサフィーアの身分は明かせない!)
「……何も、ございません。父上の御心のままに」
青ざめた表情のまま、シャールカーンは盤上の勝負にチェックメイトをかけた。