砂漠の夜の幻想奇談
『ほら、シャール。兄上よ』
『あに、うえ?』
シャールカーン五歳。
初対面だった。
くりくりした瞳でこちらを見上げる弟。
その瞳に陰はなく、十分な愛情を注がれて育ったのが見て取れる。
『今お暇かしら?よければ一緒にお茶しましょう。美味しそうなお菓子があるの。あ、こら!シャール!つまみ食いはお行儀が悪いわよ?』
『う~』
怒られているのにシャールカーンは鞭打たれなかった。
苦笑気味に咎めるだけのアブリザ。
(いい、な……)
見せつけられた自分の理想。
(うらやましい…)
嫉妬。
アブリザの笑顔が、シャールカーンの清んだ瞳が――とても欲しくて……ただ、欲しくて…。
涙が溢れた。