砂漠の夜の幻想奇談
「で?カイサリアが何だって?」
「あからさまに不機嫌なお顔をなさらないで下さい。王様」
昼間、またもや政務が終わり次第早々にサフィーアのもとへ引っ込んでしまったシャールカーンを追いかけて、バルマキーが報告をしに後宮へやって来た。
「カイサリアの姫君が近々バグダードへいらっしゃるとのことです」
カイサリアとは都市の名で、現代ではカイセリと呼ばれている。
トルコ中央部に位置する古都だ。
「何用で来るのかな?」
察しはついたがシャールカーンはわざと尋ねた。
「シャールカーン王様のご側室にと、カイサリアの王が…」
「いらない。追い返せ」
隣にいるサフィーアを自分の膝に乗せて抱きしめる。
そんな主君を見てバルマキーは溜息をついた。
「しかし…カイサリアは貴方様の母君、アブリザ様の故郷でございます。カイサリアの王ハルドビオス様は貴方様のお祖父様にあたるお方。姫君を追い返したら、お祖父様のお顔に泥を塗ることになりますよ」