砂漠の夜の幻想奇談
第二十一話:出来心
降水量が少なくなり、乾燥した暑さが始まるバグダードの初夏。
こちらの気候に慣れていない二人は馬上でヒイヒイ言いながら、バグダードの城門をくぐった。
「ああ~、喉カラカラ…。水欲しい…」
「ミロン、頑張って下さい!もう少しで王宮へ着きますから」
「シぬ…役目を全うする前に、干からびたパンになる。テオ、後よろしく……」
「ミロン!しっかりして下さい!人間はパンになりません!」
「じゃあ、チーズがいい…」
暑さにやられたせいか、もはや意味不明な会話になっている。
隣でくたばりかけている親友を気にしながらテオドールは馬の足を速めた。
やがて見えてきた王宮の門前。
二人はバグダードの宮殿に圧倒されつつ、謁見の間へ入る許可をもらったのだった。