砂漠の夜の幻想奇談
(シャール…?)
振り返ろうとするも、耳元にシャールカーンの唇が寄せられる。
「……昔、歴史を学んだ時、寵姫を溺愛し過ぎて国を傾けた君主達を馬鹿な奴らだと思ったよ」
彼の吐息が耳をくすぐる。
「自分は絶対そうはならないって、思ってた」
(シャール……それって…)
次の瞬間、サフィーアの身体が長椅子に優しく倒された。
のしかかってきたシャールカーンがターバンを脱ぐ。
煌めく星のような金髪が視界を覆った。
「サフィーア……どうやら俺は、明君にはなれそうにない」
口づけを、唇に、鎖骨にと受け入れながら、サフィーアは彼の正直な思いを聞いた。
「お前を悲しませたくない。これは私情だ。わかってる。けれど…」
今回、コンスタンチノープルに与(クミ)することで国が傾くことはないだろうが、シャールカーンは心から思う。
「お前の悲しみに暮れる姿を見るくらいなら、国が滅んだって構わない…」
切ない声は、サフィーアの胸にいつまでも残った。