砂漠の夜の幻想奇談
「そうか、安心したよ」
邪気のない表情でニッコリ微笑んでから、王子はサフィーアの頬を指で撫でた。
「サフィーア王妃、私はこれからカイサリアへ戻る」
(え!そんな、急に…)
目を見開くサフィーアを切なげに見つめる。
ルームザーンは撫でる指を止めずに囁いた。
「これで貴女とはお別れだ」
言った瞬間、サフィーアの瞳が悲しみを孕んだ。
その瞳を、ルームザーンはよく知っている。
――王子、大好きです
そう言って死んだ彼女も、同じ瞳をしていた。
「……マリ、アム…」
目の前に見えるは、愛しい人の面影。
ルームザーンの指が止まり、サフィーアの顔を固定した。
「マリアム…」
そのまま、至近距離に顔が近づいてくる。
サフィーアは我に返った。
(だ、ダメよ!こんなの!王子ヤメテ!!)
全力で暴れ、彼のたくましい胸板を押し返した、その時――。