砂漠の夜の幻想奇談
心底からジワジワと染み出す黒い声が誘惑する。
理性で抗うも、心の声はその理性さえ否定する。
お前は嘘つきだ、と。
グラグラと揺さ振られる、なけなしの理性。
欲深な心で彼はサフィーアの瞳を覗き込んだ。
キョトンとした表情でこちらを見つめる少女。
清んだ青い瞳は幼い純粋さを孕み、とても美しい。
――王子、大好きです
不意に耳をくすぐった、幻聴。
恋しさが募り、胸が痛い。
無意識にこぼれ落ちる涙に気づかないまま、ルームザーンはサフィーアを護るように抱きしめた。
驚くサフィーアを無視して、一方的な言葉を告げる。
「すまない…」
答えは出た。
「貴女が欲しい」
再びスピードを加速させる。
彼は引き返すことなく、城門の外へ向かって馬を走らせた。