砂漠の夜の幻想奇談
「こりゃすげぇ!焼いた鳥肉に魚…酒に菓子まであるぞ!」
鳩や鶉、雷鳥の肉料理や揚げられた魚。
リンゴや桃といった果物に、バター入り砂糖菓子やレモン入りのパイ。
飲み物は酒の他にも薔薇の水やオレンジの花の水などがある。
「食っていいのか!?」
男がぎらついた瞳で目の前の料理を見る。
まるで飢えたハイエナのようだ。
「どうぞ。好きなだけ食すといい」
相変わらず少女を抱いたまま、青年も料理の前に座る。
「今宵の俺は機嫌がいい。つい、おしゃべりになってしまいそうだ」
少女の手首の縄を解いて、青年は鳥肉にかぶりつく男をちらっと見た。
「…そうだ。千一夜とは言わないが、少し俺の語りに付き合ってはくれないか」
男は忙しそうに口内にパイを突っ込みながら首を縦に振った。
頷いてはいるが食事に夢中といった様子だ。
けれど青年はそんな客人の態度にも寛容に微笑んだ。
「そうか。聞いてくれるか」
彼は男にやった視線を少女に戻すと、ゆったりした声で囁くように語り始めた。