砂漠の夜の幻想奇談
若くて美しい二人の男女が眠りについた頃、一部始終を見ていた蚤二匹は本来の姿に戻った。
「フッ、賭けは俺の勝ちだな」
「くっ…!」
「認めて下さいますかね。魔神の女王マイムーナ様」
皮肉めいたダハナシュの口調。
マイムーナは心底悔しそうに歯ぎしりした。
「ああ、我の負けだ。約束通りお前の望みを一つ聞いてやろうぞ」
「ふむ……今のところ思いつかないな。保留でいいか?」
「よかろう。考えついたら呼ぶがよい。それにしても…」
すやすや眠るサフィーアに視線をやる。
「あの娘、我が魔力で宿らせた女児だったのだな。通りで、美しいわけよ」
「…姫の兄達はどうした?」
この問いに魔神の女王は愉快そうにフフッと笑った。
「我が砂漠で飼っている」
「は…?」
「言葉の通りだ。ではまたな。ダハナシュよ」
一瞬にして風となったマイムーナは唐突にその場から姿を消した。
残されたダハナシュはそっとサフィーアを抱きかかえると、連れてきた時と同じ方法で彼女を祖国の王宮に帰したのだった。