砂漠の夜の幻想奇談
第三話:十二羽のガチョウ
翌朝、朝の光にぼんやりと目を開けたサフィーア。
「まだ眠い」と、うとうとしていたが突然ガバッと跳ね起きた。
「そうだ!ここダマス…!?帰るのよ!シャールカ…ン…?あれ?」
隣にいたはずのシャールカーンがいない。
彼女は首を傾げて辺りを見回した。
「え…あれ?私の、部屋…?」
見慣れた寝室。
使い慣れた寝台。
「ゆ…め…?」
まさかの夢落ちか。
そう考えて自分の身体を抱きしめる。
(まだ微かに、薔薇の香りが残ってるわ…)
シャールカーンの移り香が鼻をくすぐる。
「夢じゃ、ないわよね…?」
抱きしめられた腕の強さも、口づけられた唇の感触も、リアルに思い出せる。
サフィーアの頬にサッと赤みがさした。
が、すぐに首を振って甘い記憶を追い払う。
「いけない!婆やが来ちゃう」
何でもない顔を作らなければ。
ただでさえ少女の機微を敏感に察する年寄り相手に、赤い顔のままで隠し通せる自信はない。
サフィーアは昨夜の出来事を自分の胸の内に閉じ込めた。