砂漠の夜の幻想奇談
「カシェルダ、か…」
呟くと、風が頬を撫でた。
ふと前を見れば、日陰で剣の手入れをしているルステムの姿が。
シャールカーンは導かれるように、座り込むルステムへ近寄った。
「ルステム」
「王様…!」
勢いよく立ち上がろうとする彼を制して、自分も隣に腰を下ろす。
「何かご用でしょうか?」
「いや……何と無く、な」
手入れを続けていいと言われ、ルステムは再び剣に目をやった。
隣で作業する彼の白い手を見つめながら、シャールカーンはポツリと呟く。
「俺は…サフィーアの笑顔を護れるなら、国が滅んだって構わないと思ってる」
突然投下された爆弾にルステムは目を丸くした。
部下の表情を無視して王は続ける。
「けれど、実際の俺はバハラマーン将軍に止められた時、サフィーアを護りたいという感情よりも理性を優先した。王だから。軍という集団のために。サフィーアのためではなく…!」