砂漠の夜の幻想奇談
ルームザーンの真意がわからない。
唸りながら歩くこと数分。
カシェルダは周りを警戒しつつルームザーンの部屋の前へ訪れた。
(姫…)
妊娠したと言っていた。
彼女に想いを寄せている自分にとって、それはかなり衝撃的なことで。
(俺が、もし……)
ダウールマカーンとして出会っていたら、彼女は自分を選んでくれていただろうか。
彼女を自分のものにできただろうか。
(…………フッ、馬鹿なことを)
「カシェルダ」で生きてきたから、姫と出会えたのだ。
愛しいと思うようになったのだ。
ダウールマカーンでは意味がない。
小さく息を吐き出してからカシェルダはそっと部屋のドアに耳を当てた。
話し声は聞こえない。
先程、広間にいるルームザーンを見掛けたが、用心するにこしたことはない。
カシェルダはゆっくりとドアを開けた。