砂漠の夜の幻想奇談

「姫…」

王子の部屋の中ではサフィーアが寝台で静かに眠っていた。

連日の疲れが溜まったのだろう。

ぐっすりと眠る姿を見て無理矢理起こす気にはなれなかった。

「サフィーア姫…」

寝台に近寄り、寝顔を覗き込む。



――触れたい


今までに何度もサフィーアの無防備な姿を見たことはあったが、欲が突き上げてきたのは初めてだった。


(シャールは、いつもどうやって姫に触れるんだ…?)


きっと誰よりも優しく触れているに違いない。

姫の頬に指を伸ばしかけて、躊躇う。


触れたい。

奪いたい。

愛したい。


しかし――。


(俺は貴女に…口づけることさえも、許されない…!)


護衛官である以上、姫に手を出すなどあってはならない。

カシェルダは震える指を引っ込めた。


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