砂漠の夜の幻想奇談
「おっと…!」
前方から来た誰かとぶつかりそうになった。
慌てて侍女が一歩下がる。
「も、申し訳ございません!ファルーズ王子っ」
そう――鉢合わせした人物は、ルームザーンの兄でありファリザードの父でもあるファルーズだった。
「いや、私こそすまない。よそ見をし……ん?君達は…」
ルステムやシャールカーンを見て首を傾げる。
ターバン姿に三日月刀。
敵兵のスタイルだと気づき、焦って腰の剣を引き抜いたファルーズは戦闘態勢に入った。
「前に逃がした敵将か」
鋭い眼差しを送り、シャールカーンも得物を構える。
「王様、ここは僕が…!」
ルステムの刃が蝋燭の明かりに反射した。
煌めきは素早く振り下ろされ、ファルーズの剣を強く押す。