砂漠の夜の幻想奇談

「くっ…!」

重い一撃を押し返すこともできずに苦戦していると、聞き慣れた声が廊下に響いた。


「兄上!?」

自分を兄と呼ぶのは、この世でただ一人。

「ルームザーン!」

末っ子の登場にファルーズは顔をほころばせた。


「兄上に刃を向けるな!私が相手になろう!」

シャールカーン達の背後から現れたルームザーンは、兄のピンチを目にして剣を抜いた。

横でカシェルダが舌打ちをしているが、兄のピンチはほっとけない。


「はあああっ!!」


勢いよくルステムに切り掛かろうとした瞬間だった。


「ヤメテー!!!!!」


腰にぶつかる感覚。

体当たりをされたと気づき、ハッとなる。

下を見れば黒髪の少女。


「え……?」


先程の「ヤメテ」は、とても懐かしい声だった。

この一年、自分が望んでやまなかった人のもの。


< 776 / 979 >

この作品をシェア

pagetop