砂漠の夜の幻想奇談
「くっ…!」
重い一撃を押し返すこともできずに苦戦していると、聞き慣れた声が廊下に響いた。
「兄上!?」
自分を兄と呼ぶのは、この世でただ一人。
「ルームザーン!」
末っ子の登場にファルーズは顔をほころばせた。
「兄上に刃を向けるな!私が相手になろう!」
シャールカーン達の背後から現れたルームザーンは、兄のピンチを目にして剣を抜いた。
横でカシェルダが舌打ちをしているが、兄のピンチはほっとけない。
「はあああっ!!」
勢いよくルステムに切り掛かろうとした瞬間だった。
「ヤメテー!!!!!」
腰にぶつかる感覚。
体当たりをされたと気づき、ハッとなる。
下を見れば黒髪の少女。
「え……?」
先程の「ヤメテ」は、とても懐かしい声だった。
この一年、自分が望んでやまなかった人のもの。