砂漠の夜の幻想奇談
「やめて下さい、王子」
ギュッと腰に抱き着いてくる彼女を凝視して、ルームザーンは剣を取り落とした。
床にぶつかり、ガシャンとうるさい音が鳴る。
「……う…そだ……」
声も手も震えていた。
「マ、リア…ム……?」
信じられなくて、両の腕は彼女を抱きしめ返すのを躊躇う。
「ルームザーン王子……マリアムです。マリアムなんです」
愛しい人が上向いた。
目と目が合い、彼女の清んだ瞳に自分が映る。
「マリアムですよ。王子のことが…大好きな……マリアムです」
胸が震えた――。
「マリアムッ!!!!」
愛しさが溢れ、目の前の恋人を無我夢中で抱きしめる。
「私は…夢を見ているのか…?」
夢でもいい。そう思う。
愛しさと一緒に涙が溢れ、止まらない。