砂漠の夜の幻想奇談
よしよし、と頭を撫でてファリザードを落ち着かせるサフィーアの横では、ドニヤがダハナシュにガミガミ言っている。
しかし、やかましい文句など聞く気はないらしく、ダハナシュは指を耳に突っ込んでそっぽを向いた。
(もう、ダハナシュったら)
そんな二人を横目に見ていたサフィーアは、ふと部屋の中を見回した。
ふわり、と――薔薇の香りが鼻をくすぐる。
(ここ、誰かの私室かしら…?)
誰もいないが、生活感の漂う居間。
読みかけの本がテーブルに置かれていたり、日の当たる場所に薔薇の花が飾られていたり。
部屋の主が見当たらないせいか、生活感だけが置き去りにされたような感覚に違和感を覚える。
ファリザードも気づいたようで、サフィーアを見上げた。
「くんくん……とても優しい薔薇の香りがしますの」