砂漠の夜の幻想奇談


 急に飛び出してきたカンマカーンに慌てたのはアフマードだった。

今日も今日とて文書庫の入口から気づかれないように監視をしていた彼は、バルマキーの使い走りとなった第三王子に発見され、「マズイぞ」と唾を呑む。

「アフマード殿?ここで何を?」

カンマカーンが不思議そうに首を傾げた。

第三王子の眉が普段よりもちょっぴりつり上がっているように見える。

「いっ、いやなに、その~、ちょっと散歩をですなぁ…あは、ははは…」

下手なごまかしを言ってからアフマードはそそくさとその場を離れた。

向かうは自分の妹、ブドゥール王太后がいる宮だ。

前王の正妃ゆえ、ブドゥールは後宮とは別に自分だけの宮殿を王宮内に持っている。

それはカンマカーンの母親ゾバイダも同じで、それゆえに彼女達は新王の正妃サフィーアのいる後宮にて寝起きすることはなかった。


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