砂漠の夜の幻想奇談
「ブドゥール!ブドゥール!」
召使の取り次ぎも待たずに駆け込んできた兄を見て、王太后は普段からピリピリさせているオーラをさらに二割増しにした。
「兄上、何用です?」
丁寧な言葉遣いだが、彼女の冷たい表情からして「何しに来たんだコノヤロー」というセリフを当てた方が適切かもしれない。
慣れているアフマードは妹の冷たい視線を気にせず続けた。
「ブドゥール!ダウールマカーン王子の捜索がなされていたこと、お前知っていたか!?」
「え?」
「聞いたんだよ!王様がおっしゃっていた!捜索に関する報告書を見つけて、本物か偽者かハッキリさせてやると…!」
「捜索!?馬鹿なっ!そんなことが…!?」
第一王子が行方不明になって、オマル王は清々していた。
自分が捜索を願っても頑なに動かなかった。
それが、なぜ――。