砂漠の夜の幻想奇談
タッタッと廊下を小走りで駆けていると、カンマカーンは中庭に面した回廊で自分の母親と出くわした。
「カン…!」
「母上!今日も母上の上に平安がありますように。ご機嫌いかがですか?」
明るい笑顔を見せる息子とは対照的に、ゾバイダ王太后は顔を曇らせる。
「カン…最近、王様と一緒になって何をしているのですか?」
「え…?」
「余計なことに首を突っ込んではなりません。いいですね」
「余計…?ダウール兄上について調べることが…?」
「そうです。そんなことは王様に任せて貴方は早くダマスへ戻りなさい」
ブドゥール王太后の動きが怪しいことは彼女も感じていた。
何か起こる前に大事なカンマカーンを王宮から離れさせたい。
安全な場所へ。
しかし、王子は首を横に振る。
「シャール兄上のピンチを、見て見ぬ振りなんてできません。それに、あのダウール兄上が偽者なら、王家は侮辱されたことになります。そんなの絶対に赦せません」
そして、カンマカーンは敬意と謝罪を込めて頭を下げた。
「この件が解決するまで僕は王宮に留まります。母上、ご命令に背くことお許し下さい」
自分の意思をハッキリ述べてから再び駆け出す。
「カン…」
そんな息子の後ろ姿を、母親は不安げな表情で見送った。