砂漠の夜の幻想奇談
カンマカーンは左手でアフマードにしがみつき、右手で自分の腰に下がっている短刀を抜いた。
瞬間、視界が霞み、柄を握る力が弱まる。
だが――。
(この男を、逃がさないためなら…ここで命尽きてもいい…!!アッラーよ!僕に力をっ!!!!)
渾身の力をふりしぼり、彼はアフマードの足に短刀を突き立てた。
「ぎゃあああっ!!!!!!!」
響く叫び声。
怒りと痛みで涙を流しながら、カンマカーンは敵の足を何度も刺した。
誰か、人が駆け付けるまで、この男を逃がさないように。
自分の命、果てるまで。
「きゃああっ!!」
意外とすぐに人が通りかかった。
王の居室で雑用を任されていた数人の侍女が悲鳴を上げる。
「王子!!」
「い、医官を!!早く!」
「王様もお呼びします!!」