砂漠の夜の幻想奇談
騒ぐ侍女達の声が耳に入る。
(王、様……?あに、うえが……いらっ、しゃ……)
フッと、力が抜けた。
もう大丈夫。
後は兄に任せればいい。
きっと上手くやってくれる。
(あに…う、え……)
アフマードの足にのしかかった状態で、カンマカーンの身体がダラリと崩れる。
まだかろうじて意識はあるが、視界にはもう、何も映らない。
アフマードが抱えている報告書を奪い取りたいが、起き上がることはできなかった。
指の一本さえも、動かない。
「………ノ……ズ……」
唇の動きが止まる。
そして魂は、神の御許へ。
彼が最期に囁いた言葉は、愛した妻の名前だった。