砂漠の夜の幻想奇談
「怪我人の手当てを致します!どうか、剣をお納め下さい」
「怪我人!?こいつは罪人だ!それにカンは…!カンはっ…もう…」
唇を噛み締めてチラリと弟の身体を見遣り、悲痛な表情で目を閉じる。
「……死んだんだっ」
やっとのことで吐き出した声。
「カンは………死んっ……」
自身に言い聞かせるようなそれは、途中で理性に阻まれた。
わかっている。
アフマードを殺す時は今じゃない。
捕らえて、牢にぶち込んで、然るべき時に処刑するのが望ましい。
怒りに任せて剣を振るってはならない。
(そうだ……落ち着け)
ゆっくり深呼吸をしてから、シャールカーンは剣を下ろした。
「アフマード、貴様を拘束する。医官、傷の手当てを」
「御意」