砂漠の夜の幻想奇談
軍事資料室から出て来たところを王とバッタリ出くわす。
バハラマーンは挨拶をしながら穏やかに微笑んだ。
「王様の御身に平安がありますよう」
「あ、ああ…ありがとう…。貴殿の上にも平安あれ」
浮かない表情で挨拶を返す王を不思議に思ったバハラマーンだったが、直ぐに話を始められ疑問は頭の隅に追いやられた。
「将軍、至急ダマスへ行ってくれ。連れて来てもらいたい人物がいるんだ」
その人物に関しての詳しい説明を聞いてから「御意」と頷くと、王は躊躇いがちに付け足した。
「それから……カンが…亡くなった。これをノーズハトゥに伝えて欲しい」
「なっ、なんですと!?そんな…!真ですか!?」
つい先程まで一緒にいた末っ子王子の元気な姿がありありと思い出せるゆえ、王の言葉を疑ってしまう。
「事実だ。カンは……アフマードに殺された」
俯いて告げてから、王はクルリと背を向けた。
「ダマス行きの件、急いでくれ将軍。早く奴らを一網打尽にしたい」
「はっ、はい!」
向けられた背中は、微かに震えて見えた。