砂漠の夜の幻想奇談


 王妃の居室にて、サフィーアは服を編みながらファリザードの楽しいおしゃべりに耳を傾ける。

暑い午後。


「サフィーア…」


不意に聞こえた、低音。

今にも消え入りそうなその声はシャールカーンのものだった。


(シャール…?どうしたのかしら?)


「王様!お邪魔してますわ」

部屋の入口に立つ王を見つけてファリザードが会釈する。

しかしシャールカーンは挨拶も無しに、ふらふらとサフィーアに近寄った。

そして長椅子に座る彼女の前にしゃがみ込むと、腰に抱き着いてサフィーアの膝に顔を埋めた。


(シャール!?)


突然のことに驚き、ファリザードの前ゆえに恥ずかしさが押し寄せ抵抗しようとしたサフィーアだったが、小さな啜り泣きを耳にして動きを止める。


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