砂漠の夜の幻想奇談
(シャール…?泣いて…るの…?)
普段、ほとんど泣き顔を見せないシャールカーン。
そんな彼が人目も憚らず泣いている。
(何か…あったのね…)
サフィーアはそっと彼の金髪を撫でた。
王と王妃の様子を見て、傍に控えていたドニヤがファリザードにやんわりと声をかける。
「ファリザード様…すみませんが…」
「ええ。わかってますわ。そーっと、そーっと」
今は二人きりにさせてあげよう。
ファリザードとドニヤは音も無く部屋から退いた。
(姫、ドニヤ…ありがとう……)
彼女達に感謝してから手にしていた編み物を置き、両手でシャールカーンの頭を抱きしめる。
何があったのか、今は聞かない。
ただ、寄り添いたい。
多くの人間がいるこの王宮の中で、他の誰でもない、自分のもとへ来てくれた彼の心に――。