砂漠の夜の幻想奇談
訃報を聞いて駆け付けたノーズハトゥは、夫の葬儀に間に合わなかった。
遅れ馳せながら墓の前に立ち、祈りを唱える。
遺体さえ見なかった。
「カンマカーン、王子…」
呼び掛けたら、不意に返事が返ってきそうで。
けれど、期待しても虚しくて。
「姫……」
控えていたルステムが、そっとハンカチを差し出した。
いつの間にか、ボロボロと涙が頬を伝っていたらしい。
「あり、がとう……」
ルステムの優しさを受け取り、ノーズハトゥは肩を震わせて泣いた。
しばらくして、王宮に戻った彼女は義母にあたるゾバイダと会い、互いの悲しみを慰め合った。
王太后の傍にいた侍女のダリラも、悲痛な表情でむせび泣く。
悲しみに彩られた王宮。
その時、ノーズハトゥは希望の光を灯した。
彼女はゾバイダに妊娠の報告をしたのだった。