砂漠の夜の幻想奇談
「違う!俺は…!」
カシェルダが反論しようとするも、サバーまでもが口を開いてこう言い出した。
「本当だ……彼だ…。王様!彼です!私も断言致します!」
皆がサバーに注目する。
「どれだけ時が経とうと、自分が気に入った者の顔を私は忘れたり致しません。彼が十二年前に助けた少年です」
キッパリとした彼らの物言いに対しカシェルダは焦りと怒りで声を荒げようとしたが、言葉が口を出る前にシャールカーンの震える声に遮られた。
「そう…なのか…?カシェルダ…?」
双方ゴクリと唾を呑む。
カシェルダは玉座へと向き直った。
何も言わずにジッとシャールカーンを見つめてから、その隣にいるサフィーアへ視線を移す。
「姫……」
不安や緊張からか、サフィーアは両手を祈る形に組んでいた。
シャールカーンの時よりも長く、愛しい姫を見つめる。
そして不意に、カシェルダは自嘲めいた笑みを作った。