砂漠の夜の幻想奇談
身に覚えがあるブドゥールはウッと言葉を詰まらせた。
彼の背中には幾筋もの生々しい傷痕。
腕や肩にもうっすらと痕があるが、背中が一番くっきりと残っている。
「貴様は狡猾だからな。服を着れば隠せるところばかりを狙って俺に体罰を与えていた」
身体に刻まれた証拠を見せつけてから、カシェルダは床に尻餅をついている偽者を見下ろした。
「おい、そこのお前」
「ひっ!」
情けない姿の青年に詰め寄り、凍てつく眼差しを突き付ける。
「お前は以前、シャールが俺を殺そうとしたとかほざいたよな?ハッ!真実を教えてやろうか?十二年前、俺を殺そうとしたのはシャールじゃない。あの“災厄(ワザワイ)の母”、ダリラだ!!」
ゾバイダ王太后の後ろに控えていた老婆を指で示し、カシェルダは堂々と断言した。
一同の注目が一介の侍女ダリラに集まる。