砂漠の夜の幻想奇談
「俺は血を流しながら、やっとのことで貴様から逃げ王宮を飛び出した。それから奴隷商人に助けられ、なぜか貴族に買われ……ダマスに行った。そこで一年も暮らさない内に俺の護衛官…カシェルダがやって来て俺を貴族から買ったんだ。だが、バグダードに戻る途中の砂漠で盗賊に襲われ……俺の護衛官は死んだ」
いつの間にか騒がしさは静まり、皆がカシェルダの語りに耳を傾けていた。
カシェルダ――否、ダウールマカーンは続ける。
「俺も重傷を負ったが、賊を全員始末して何とか生き延びた。まあ、砂漠で干からびる寸前に通りすがりの隊商(キャラバン)に拾われてなかったら、確実に砂に埋もれて死んでただろうがな」
足に擦り寄ってくるバキータを無意識に撫でながら、彼はシャールカーンを瞳に映した。
「それから俺は隊商と共に各地を転々とし、コンスタンチノープルを訪れた時、そこで軍人になることを決めた。バグダードの、我が王家を滅ぼすために」