砂漠の夜の幻想奇談
王家を滅ぼす。
この言葉に反応し、再び周囲がざわめき出した。
シャールカーンの安全を護るべく、トルカシュやバハラマーン将軍らが反射的に前へ出る。
「騒ぐな。別にシャールを殺すつもりはない」
弟に向けていた視線をスッと下げる。
「俺が始末したいのは女どもだ。オマル王には女が多過ぎた。ゆえに醜い争いが生じる。特に、我が生みの親…」
低く唸るように吐き出すと、カシェルダは腰に帯びていた剣を抜いた。
「貪欲で、狡猾で、権力欲に塗れた雌狐がっ!」
ランプの明かりに反射して光る刃の切っ先が、ブドゥール王太后に狙いを定める。
「貴様さえいなければ!カンマカーンだって……死なずにすんだはずだっ!!」
突如、カシェルダが動いた。
激しい怒りと憎しみをこめて、王家が抱える醜悪な闇を断ち切るために。