砂漠の夜の幻想奇談
「ひぃっ…!!」
ブドゥール王太后が怯んだ。
無慈悲な刃が彼女の上に振り下ろされる――と、思いきや。
「お止め下さい…!ダウール兄上!!」
呼び掛けと同時にシャールカーンがカシェルダに抱き着いた。
縋り付くようなその行動に、カシェルダの腕がピタリと止まる。
「放せ……シャール」
「嫌ですっ…」
「放せっ!シャールカーン!!」
「嫌です!!いくら兄上といえど、王太后を殺したら処罰は免れません!ですから……私が…」
シャールカーンは小さく深呼吸してから心を決めた。
「私が王命を出します」
兄に抱き着いたままシャールカーンは将軍と警備兵達に命じる。
「ブドゥール王太后とその男を捕らえよ!!アフマードと同じように牢へ入れておけ!!」