砂漠の夜の幻想奇談

弟の返事に満足してからカシェルダはサフィーアに向き直った。

「姫にも、お許しをいただきたいのですが…」


(え?お許しって…?)


いまいちピンと来ていないサフィーア。

それを察したカシェルダが、姫の手を取り跪く。

「私の正体がこの国の第一王子ダウールマカーンだと知った今でも、お傍に置いて下さいますか?」

キュッと握られた手が、「離れたくない」と強く訴えているようで。

サフィーアは嬉しく思いながらコクリと頷いた。


(私にとって、カシェルダはカシェルダよ。正体が何だろうと突き放したりしないわ)


心の声を理解したわけではないが、頷いてもらえた事実にカシェルダの顔がパッと輝く。

「姫っ…!ありがとうございます!」

彼は敬愛の印にサフィーアの手の甲へキスをした。


(きゃ…!)


反射的に頬をポッと染めるサフィーア。

それに気づかない夫シャールカーンではないが、相手が兄ゆえに唇を噛んで自分を抑えたのだった。


こうして今まで通りサフィーアの護衛官を務めることとなったカシェルダだが…。



< 906 / 979 >

この作品をシェア

pagetop