砂漠の夜の幻想奇談
弟の返事に満足してからカシェルダはサフィーアに向き直った。
「姫にも、お許しをいただきたいのですが…」
(え?お許しって…?)
いまいちピンと来ていないサフィーア。
それを察したカシェルダが、姫の手を取り跪く。
「私の正体がこの国の第一王子ダウールマカーンだと知った今でも、お傍に置いて下さいますか?」
キュッと握られた手が、「離れたくない」と強く訴えているようで。
サフィーアは嬉しく思いながらコクリと頷いた。
(私にとって、カシェルダはカシェルダよ。正体が何だろうと突き放したりしないわ)
心の声を理解したわけではないが、頷いてもらえた事実にカシェルダの顔がパッと輝く。
「姫っ…!ありがとうございます!」
彼は敬愛の印にサフィーアの手の甲へキスをした。
(きゃ…!)
反射的に頬をポッと染めるサフィーア。
それに気づかない夫シャールカーンではないが、相手が兄ゆえに唇を噛んで自分を抑えたのだった。
こうして今まで通りサフィーアの護衛官を務めることとなったカシェルダだが…。