砂漠の夜の幻想奇談
「貴女に一つ言っておきたいことがある」
不意にカシェルダが口を開いた。
「何でしょうか」
「俺の愛情を求めないでくれ」
軽く息を呑む。
ノーズハトゥはカシェルダの思い詰めた表情を見つめた。
「俺は誰も愛さない。我が子を欲しないからという理由もあるが……俺は…あの方以外、愛せない…」
都合の良いことを言っている自覚はある。
無理矢理娶っておいて、更に残酷な言葉を告げるなんて。
しかし、これだけは譲れない。
「だから…」
続けようとした時だった。
ノーズハトゥが彼の唇にそっと指を添えた。
「私も……昔も今も、一番恋しいお方は…たった一人なのです」
泣きそうな表情で彼女は微笑む。
突然の告白に一瞬呆気に取られたが、我に返るとカシェルダは力無く笑った。
「俺達は、ある意味互いの一番の理解者かもしれないな」
「そうですね…」
一番恋しい人の傍にはいられない。
切ない思いを胸に秘め、夢を見る。
いつか、この切なささえも「愛しい」と思える時が訪れる夢を――。