砂漠の夜の幻想奇談
第三十一話:消滅


 ダウールマカーンが王都にて睨みを利かせているおかげで、それからのシャールカーンとサフィーアは平穏な日々を送ることができた。

ダマスの屋敷で太守を務めながら過ごす毎日に、シャールカーンはこれ以上ない幸せを感じている。

それはサフィーアも同じこと。

最高権力者の地位ではなくなったが、バグダードにいて気苦労が絶えなかった頃よりもずっとずっと、彼らの心は満ち足りていた。



「シャムスー!どこにいるんだい?シャムスエンナハール!」

あれから丁度、二年が経った。

「どこに行ったんだ?シャムスは」


仕事の休憩時間に居室へ顔を出したシャールカーン。

まだ一歳ちょっとの愛娘を溺愛している彼は、僅かな時間でも構いたくて構いたくて仕方ないらしい。


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