砂漠の夜の幻想奇談
「こちらにいらしたのですか、太守様」
不意に後ろから声がした。
振り向けば、呆れた様子のバルマキーとニコニコ顔のトルカシュが。
「小休止の度に居室へお戻りにならないで下さい。毎度毎度、お呼びするのが面倒です」
元国王で現在太守の彼に対して堂々と「面倒臭い」発言をできるのは、世界広しと言えどバルマキー唯一人だろう。
「シャムスのせいだよ。シャムスが可愛いからいけないんだ」
「姫君に責任転嫁なさらないで下さい。嘆かわしい」
「お前も子が生まれたらわかるさ。そうだ、ファリザード姫はどうだい?」
「はい。だいぶ腹が目立つようになりました。体調に問題はありません」
シャムスが生まれてすぐバルマキーとファリザードの結婚式があった。
夫であるバルマキーと共にダマスで暮らしているファリザードは今、妊娠中だ。