砂漠の夜の幻想奇談

「健やかな子が生まれるよう祈っておこう」

「感謝致します」

一礼するバルマキー。

そんな側近に向かって、シャールカーンに抱かれているシャムスが手を伸ばした。

「あ~、あー!」

「どうしました姫様~。遊びたいのならこのトルカシュがお相手しますよ!ほらっ、一緒に遊びましょう~!」

「トルカシュ!あんたは仕事に戻りなさい!太守様もですよ」

すかさず姉のドニヤが割って入り、シャールカーンの腕から愛娘を取り上げる。

「しゃ~るー」

今度は父親に手を伸ばすシャムス。

「あっ、シャムス…!」

「ダメですよ」

ドニヤに睨まれ、奪還ならず。

「しゃ~るぅー…」

潤んだ瞳で見上げてくる愛娘。

いかにも甘えたそうな表情をする我が子に手がプルプル震える。


(だ…抱きしめたい!)


だがしかし、仕事の時間だ。

しばしの葛藤の末、シャールカーンは娘の誘惑に勝った。

酷く名残惜しいが、大きく深呼吸をして意を決する。


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