砂漠の夜の幻想奇談
「また後で来るからね」
シャムスの頭を優しく撫で、中庭から屋敷内へ。
バルマキーとトルカシュもすぐ後ろをついて来る。
とその時、居室の方から愛しい我が子を生んでくれた更に愛しい存在のサフィーアが駆けて来た。
(シャール~!!)
「サフィーア?どうしたんだい?そんなに慌てて」
息を弾ませるサフィーアはシャールカーンの前で急停止すると、ズイッと紙を突き付けた。
「ん?何?で、きた…服が十二着っ――編み上げたのか!?」
(うん!できたの!終わったの!これで兄上達を解放してあげられるわ!)
満面の笑みを浮かべるサフィーア。
「サフィーア!!」
感極まって、シャールカーンは彼女を全身で抱きしめた。
「おめでとう、サフィーア!この数年、よく頑張ったね」
(く、苦しいわ!シャール)
あまりの強さに顔をしかめるも、喜びが勝り自然と笑顔になってしまう。
「明日の昼間、一緒に兄上方のところへ出掛けよう。もう少しでお前も解放されるよ」
明日になればサフィーアの声も自由になる。
「早くお前の愛らしい声が聞きたい…」
啄むようなキスをしながら、サフィーア本人以上に明日を待ち遠しく思うシャールカーンだった。