砂漠の夜の幻想奇談
第三十二話:たとえそれが、千年後でも
砂漠の月夜は美しい。
美を愛するダハナシュはこの景色が好きで、よく砂漠にやって来る。
今宵も白く輝く月を堪能した彼は、暇潰しにあの十二人の王子達をからかってやろうと塔に向かおうとした。
しかし…。
「ん?消えた…?」
塔の存在が感じられない。
訝しんでいると、すぐ近くに別の建物を発見した。
なんと、見事な宮殿だ。
「なんだ?マイムーナの奴、また違う男を飼い始めたのか?」
さして興味もなかったが、暇潰しのため寄ってみる。
ふよふよ飛びながら入口を通過し、人の気配がする部屋に入ってみると、そこには見知った顔があった。
「ほう……これはこれは。捕まってしまったか」
ニヤニヤ顔で独り言を呟けば、月明かりに照らされた窓辺にて静かに涙を流していた人物が振り向いた。
「シャールカーン王子」