砂漠の夜の幻想奇談
「くっ…!」
ギリリと歯ぎしりする。
下っ端のダハナシュに命令されるのは心底苦痛だが、約束は約束だ。
「…わかった。良いぞ。叶えてやろう」
憎々しげに承諾するマイムーナ。
そんな彼女を横目に、ダハナシュは思い出したように付け加えた。
「ああ~だがな、俺は欲張りなんだ。容姿に性格に癖に仕種、記憶までもが完璧に同じサフィーア姫しかいらん」
容姿だけを模倣した人間を造ろうとしていたマイムーナは驚きの声を上げる。
「はあ!?お前!そんなしち面倒臭いことを我がするとでも――」
「できるだろう?やれ」
へらへら笑っていたダハナシュはどこへやら。
相手を刺すような凍てついた眼差しを受け、マイムーナは柄にもなく身震いした。
「できるのか…?」
不意に、シャールカーンの声が響いた。
「サフィーアを…また…この腕に抱けるのか…?」