砂漠の夜の幻想奇談
「あら?珍しいわね。こんな夜更けに来るなんて」
少女は小さな来訪者に微笑み、起き上がって窓辺へ近寄った。
「小鳥さん、こんばんは」
ピチチと鳴いてくれるだろうか。
期待していたら見当外れの声が返ってきた。
「挨拶はいいから姫の愛がほしい」
低い男性の声。
「え?小鳥さん?きゃあっ!?」
突然、漆黒の小鳥が形を変えた。
黒い闇が小鳥を包み込んだと思ったら、闇の中から黒髪の青年が現れた。
「あ…あな、た……誰…?」
青年は意地悪げに微笑む。
「俺はダハナシュ。姫よ、そろそろ記憶を取り戻しても良い頃だぞ」
「記憶…?何の話かしら…?」
訳がわからず首を傾げると、ダハナシュと名乗った青年は真顔になった。
「ふむ、姫の記憶は王子に会わなければ戻らないようになっている。全く…マイムーナの嫌がらせには困ったものだ」
すると、彼は少女をひょいと抱き上げた。
「きゃ!何するの!下ろして!」
「身を任せて来るといい。貴女の運命が待っているぞ。砂漠でな」
運命――少女はこの言葉にドキリとした。
自分の運命は明日結婚することだ。
それなのに、砂漠で待っているとはどういうことだろう。
無意識に彼女はダハナシュの服を握っていた。
「行くぞ」
己の服を掴んだ少女に気分を良くし、ニヤリと笑んでからダハナシュは夜空へと飛翔した。