マサハルさん
「ばあちゃん、せんべい食べる?」
「ああ、戸棚にあったがなあ」
ばあちゃんは目が悪い。
僕とシズカさんが似ているというのも、マサハルさんに似てしまった孫を不憫に思い、そう言わなければならない何かを、心に宿しているのだろう。
こういう時、肉親というのは本当にありがたいものだ。
「ばあちゃん、せんべいなかったよ」
「お? そうかい?」
僕はばあちゃんに湯飲みを差し出しながら、縁側の、ばあちゃんの隣に腰を下ろした。
ばあちゃんが握る湯飲みは、僕が小学校の図工の時間に作った湯飲みだ。
父の日に贈るはずだったその湯飲みは、前日に不注意で、僕の手乗り文鳥を逃がしてしまったマサハルさんへの感謝の品ではなく、当てつけの為にばあちゃんに贈られるという、マサハルさんにとっては、戒めの一品だ。
そして、物を大事にするお年寄りに渡された湯飲みは、いまだにマサハルさんの手に渡ることはなく、「お父さんありがとう!」の感謝の意を、間違ってばあちゃんに向けて発し続けている。