マサハルさん
「あの子はなあ、性根は真っ直ぐなんじゃが、こう、なんつうか、要領が悪いっつうか……」
ばあちゃんは、遠くの柿の木を見つめてそう言った。
そこには、ハシブトガラスが二羽止まっていた。
僕は焼きサバのように茶色く光る、ばあちゃんの手の皺を見ていた。
指だけが長く、猿みたいに大きな手。
その指が、僕の茶碗を撫でている。
「シズカさんと一緒になって……お前達が生まれてくれて……ばあちゃんは、シズカさんには本当に感謝しとる……」
当時、生まれたばかりのハナの写真を見ながら、ばあちゃんはそう言った。
柿の木のハシブトガラスの夫婦は、ナワバリに入り込んだ、一羽のカラスを追い始めた。
僕の足元ではアリが冬の支度を始めている。
ばあちゃんは、シズカさんにこの言葉を掛けたのだろうか。
そして、シズカさんはこの言葉をどう受け止めたのだろうか。
今となってはわからない。
シズカさんはもういない。
この言葉を聞き、それでも出て行ったシズカさんの覚悟は、きっと、まだ子供の僕にはわからないことなんだろう。