マサハルさん
マサハルさんは普段と変わらない。
相変わらずハゲかけてるし、チビで早とちりだ。
この前も、「アキラ! アキラ! ちょっと来てくれ!」といつもの調子なので行ってみると、頭に新しい毛が生えてきたと、前の日に贈った誕生日プレゼントの育毛剤を握って、ランニングにトランクス姿で大騒ぎしていた。
ハナは面白がり、何度もその短く生え始めた毛を触っていた。
僕は止めたが、マサハルさんも嬉しそうに何度も触らせていたので、そのままにしてキッチンへと行った。
僕がマサハルさんの悲鳴を聞いたのは、その直後、昼の弁当の準備をしていた時だ。
やはり、新しく生え始めた毛ではなく、抜けたヒゲか髪の毛が刺さっていたのだろう。
無くなった毛は、マサハルさんの未練とは裏腹に、あっさりと洗面台の排水口に消えていた。
僕はマサハルさんのあまりの落胆ぶりに声がかけられず、その日の夜のビールを追加した。