マサハルさん
指定された場所へ行くと、マサハルさんはハナの手を握り、仁王立ちしていた。
目は真っ直ぐ遠くを見据え、いつもだらしなく開いている口は、真一文字に閉じられている。
パタパタと風にはためく薄っぺらい安物のネクタイが、何か物悲しかった。
町民グラウンドのある河川敷、すぐ側を電車が通っている。
犬を散歩させているおじいさんに見られても、マサハルさんは微動だにしなかった。
「どうしたの?」
僕の言葉にマサハルさんはゆっくりと首を回す。
ギリギリと食いしばる口元は、これから言う言葉をそこから出したくないかのように見えた。
「ア、アキラ、よ、よく聞けよ……シ、シズカさ、シ、シズカ、さ、さ、さんが……」
やっとの思いで搾り出したかのような声は聞き取りづらく、そして、聞いたことがなく、さすがに、事の重大さを感じた。
隣でハナが泣き出す。
火のついたような、何かを開放したかのような激しい泣き方に、僕は最悪の事態を考えた。
「マ、マサハルさん、シ、シズカさんは……」