マサハルさん
「アキラ! アキラ! ちょっと来てくれ!」
僕はその声に、我に返った。
机の上には一向に進まない夏休みの課題が広がっている。
居眠りをしていたのか、ボーっとしていたのか、腕を乗せていたノートは、僕の体温でふにゃふにゃになっていた。
窓の外からは生ぬるい風が入ってくる。
地元の自治体が分譲した、3つ連なるマンションの3階。
無機質な打ちっ放しのコンクリートではなく、明らかに手の抜かれた安価なモルタル仕上げは、きっと、僕の体温を何度か引上げているにちがいない。
外を見る。
幸いなことに、僕の住んでいる所、この棟の前は公園であり、そのお陰で他の棟よりもわずかだが風の通りが良い。
だけどその分、いくつもの中華なべを一斉に床に落としてしまったような、ワシャワシャというセミの大合唱に付き合わなければならなかった。