マサハルさん


『鉛筆で丸をつけたところにアナタの名前と印鑑を押して、下記の住所に送付ください』


ある日、母親は、これだけを残すと、僕らの家を出て行った。

理由はわからない。

何度か携帯電話に掛けてみたが、呼び出しはするものの、母親が出てくれることはなかった。



『追伸 失敗するだろうから、もう一通同じものを同封いたしております』


父親が嫌われた理由はこの辺りにあるのかもしれない。

基本的にいい人なんだが、人の話をあまり聞かない。

聞く気がないわけじゃない。

本人はいたって真剣に聞いているつもりなんだが、相手の意思を汲み取って、その人の為に何かをしようと思うあまり、人の話が途中であっても、突っ走ってしまう。

最後まで聞かないので、相手の真意を理解してないし、結果的に空回りと言うか、その人が望むものと反対の結果になってしまう。

そんな人だ。

そして、やっぱり書き間違えていた。
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