マサハルさん
 
「マサハルさん、それ出すんだ?」


僕は、その書類を、正座して真剣に書き直す父親の背中に聞いた。

僕ら……僕と妹のハナは、出て行った母親……シズカさんの真似をして、父親のことを名前で呼んでいた。


「うん、シズカさんがそう願うなら、それが一番だろ? シズカさんの決めたことに、いつも間違いはない!」


僕のほうを振り返りながら、そう胸を反らして自慢げに言うマサハルさんを見ていると、心が痛むというより、心のどこかが疲れて、何も言い返せなかった。


「これは、僕に預からせて。マサハルさんが出すと、シズカさんのところには届かないかもしれない」


僕が冗談交じりにそう言うと、マサハルさんは「うむ」と真剣な顔で、僕に書き終えた書類を入れた封筒を差し出した。

この辺りも、原因のひとつかもしれない。
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